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【2013.9月号】社会保障の原点を見失った「国民会議」の議論

 8月21日、政府は、前民主党政権当時に成立した社会保障制度改革推進法の規定に基づき、平成27年度までの制度改革の手順を定めたいわゆる「プログラム法案」の骨子を閣議決定した。一口に言って、この骨子の内容では、少子高齢社会を迎えたわが国の社会保障が充実する見通しはない。
 最大の問題点は、20世紀に各国で社会保障制度が成立した歴史がまったく顧みられず、所得税や法人税といった国税や企業の負担で「所得の再分配」を図るという原点を見失っていることにある。
 この骨子が示したのは、個々人の自助努力を前提に、医療や介護のサービスを受ける者が相応の負担をするということ、“相互扶助”の精神で被用者保険者の後期高齢者支援金や介護納付金の負担を総報酬制にして保険料増収を図るということである。
 また、給付範囲の「適正化」「見直し」という1980年代からの常套文句で、在院日数や外来受診を抑制し、要支援高齢者の介護保険給付を外し、特養入所は原則要介護3以上に限定という方針である。
 もしこれに反するような受診・入院や介護保険の利用がある場合は、給付削減と負担増のペナルティが待っているということだ。
 一足先に高齢化社会を迎えた西欧各国が選択した道は、所得能力に応じて税を負担するということで、社会保障を支えるということであった。だがこれも「上手く稼ぎ、成功した者が報われる」という新自由主義の登場で、1%が富み99%が底辺に沈むという格差の拡大、貧困者の増大という事態が生まれている。
 2010年度の全企業の内部留保金は461兆円と国内総生産(GDP)に匹敵する。2012年には上位20社だけで67兆円を超える内部留保金がある。この中には武田薬品工業の2兆2千億円も入る。
 にもかかわらず、アベノミクスでは更なる法人税減税をいうのである。しかもこの内部留保金は国内経済の成長のための設備投資や人件費には使われず、もっぱら金融投資(マネーゲーム)や外国企業買収に使われている。“グローバル企業栄えて民滅ぶ”の日本でいいのだろうか。
 今、政府がなすべき改革は、40年以上にわたって医療や年金の保険料を納付してきた高齢者、家族に恵まれず孤立している病弱高齢者に安心と救いの手を用意することである。 このための財源措置は高齢者や低所得者の生活を直撃する消費税にではなく、所得税と法人税、各種の取引税に求めるべきである。
 国民生活実態調査が示すように、多くの高齢者は低所得で金銭的な余裕はない。今の政府の方針が是正されない限り、ますます健康格差が拡大する心配がある。
 健康格差は国の政治の貧困さを示すものであり、国民の幸福度を下げるものである。
 今回の「骨子」案では、国民の健康格差はますます拡大することになり、撤回されるべきである。