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【2013.10月号】高すぎる新薬薬価を下げさせる全国的医療運動を望む

 最近の報道によると昨年度の保険医療費が推計で約39.4兆円と発表された、
 しかしそのうちの約9兆円は薬剤費であり、国民医療費に対する保険薬剤比率は22.5%になる。医療用薬剤にこれだけ費用が掛かっているということは、そのまま保険料の値上げや患者の一部負担にのしかかっているという実態である。
 それにもかかわらず政府厚労省が薬剤費抑制のために言っていることは、判を押したように後発医薬品の使用促進を強調するにとどまっている。
 薬剤費の約50%に当たる4兆5千億円は、後発品のない新薬で占められている。最近の創薬の進歩で、高薬価な抗がん剤や生物学的製剤が登場し、救われる患者も少なくないが、実はこうした画期的新薬だけが薬剤費を押し上げているわけではない。
 先発品が薬価算定で優遇されているのは、開発コストの回収という名目で、新薬創出等加算がプラスされるという仕組みがあるためである。
 この新薬創出加算という仕組みは、本来は難病やがんなどの薬で市場規模の小さい領域で加算し、薬価の下落を防止するという性格のものであると説明されているが、実態は大きく異なっている。実際には市場規模の大きい生活習慣病などを対象とした新薬の77%に加算されているのである。 
 このため加算対象となる医薬品は金額ベースでは薬剤費の24.4%、金額でおよそ2兆2千億円(平成22年度)を占めている(保団連:薬価の国際比較調査報告書より)。
 こうした新薬創出加算が、すでに開発コストを回収しているのではないかとみられる大手の外資系製薬企業の利益保証にもなっている点は納得がいかないのである。
 結果として、製薬企業の経常利益率は他の製造業の平均1.7~5.4%に比較して、13~16%と群を抜いて高くなっている。例えば業界最大手の武田薬品工業は27~43%の営業利益率を誇り、2011年度の利益剰余金(内部留保)は2兆2千5百億円に上る。こうした内部留保の源泉は保険医療費なのである。
 このように私たち保険医は、一人勝ちしている製薬企業の金儲けのお手伝いをさせられているのであるが、こうした状況に対応して、諸外国に比較しても高い新薬の薬価を下げさせる運動を始める必要があるのではないか。
 新薬薬価が下がればそれだけ患者負担を軽減させることが出来、それによって得られる新たな財源の一部を再診料や不当に低い技術料に充当させることも可能になる。
 診療報酬改定を前にした今、製薬企業の1人勝ちを是正させ、患者一部負担の軽減と診療報酬改善財源に回すことは、医師会を含めて医療団体が一致して取り組める運動ではないだろうか。