主張

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【2016.8月号】超高額薬価製剤への対応では重要な視点がある


 昨年、インターフェロンに替わるC型肝炎治療の高額な特効薬が話題となったが、今度は肺がんの新薬が登場した。この新薬はC型肝炎薬とは異なり、わが国で発見され、最大で年間5万人に使用される可能性があり、そうなるとたった一つの新薬だけで1兆7千5百億円の医療費になるとの日赤医療センターの國頭化学療法科部長の試算が報道され、大きな衝撃を与えた。
 もともとこの新薬は二次治療薬のなかった悪性黒色腫への適用でまず承認され、ピーク時でも500人足らずの患者への使用で予想売上額もわずか31億円とされていたものである。それが米国を中心に行われた国際共同試験で従来の治療が無効とされた進行非小細胞肺がんへの一定の有効性が検証されると、国内治験では非扁平上皮癌で完全奏功2例、部分奏功13例、合わせた奏功率20%、扁平上皮癌では完全奏功例は0、部分奏功9例、奏功率約25%というわずかな治験成績にもかかわらず承認されたのである。
 現在この新薬を体重65kgの人が使うと薬価が1回約146万円、2週間間隔で6ヶ月投与すると1,859万円強となる計算である。確かに従来の抗がん剤で救えなかった進行肺がんの一部が抑えられるかもしれない。そのことで生存期間の延長が期待され、人生を取り戻す患者もいるかもしれないがあまりにも負担額が大きい。
 最初の疑問はなぜそんなに薬価が高いのか、ということである。この新薬のように類似薬がないと研究開発コストを含む原価計算方式が採用され、厚労省内の「薬価算定組織」と企業によって密室の薬価算定協議が行われることになり、開発費を含む製造原価や販売経費以外に営業利益率をプラス50~100%まで補正加算される。事実この過程は非公開であり、企業機密の壁もあり、青天井的な高額薬価が登場する背景となっている。
 ではどうしたら今後も予想されるこうした新薬の高薬価が抑えられ、患者の利益と健全な保険制度を守ることができるのであろうか。
 まず第一にこうした新薬の保険採用後の企業収益をしっかり見極める公的監視組織が必要である。そして不当に高い営業利益を上げた場合は薬価を切り下げると同時に、保険者に企業利益の一部を返還させる仕組み(法制度)をつくることである。
 次に大事なのは患者が新薬の過大な宣伝に惑わされないように、新薬の使用状況を迅速に医師に伝え、医師が患者への情報提供を確実に行えるように義務づけることである。
 そして不透明な薬価算定の仕組みについて、すでに2012年に保団連が厚労省に要望書を提出しているが、公正で透明性のある薬価算定制度に変えることである。
 多国籍化しつつ各国の保険制度を利用して莫大な利益を上げている製薬企業への公的な規制機関の確立も必要ではないか。その点ではTPPの批准にも強く反対していかなければならないのはもちろんである。