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【2017.9月号】高齢者の経済的困窮を加速する消費税引き上げや医療・介護の負担増は中止を

 これまでわが国では、60歳以上の6割には預貯金があるという統計から、高齢者が生活に窮することは少ないとみられがちであった。しかし最近の調査で見ると、少なくとも高齢者の3人に1人は生活実態が相当に厳しくなっており、「下流老人」社会の到来が現実味を帯びてきている。
 また二人暮らしから配偶者の死亡により一人暮らしとなる高齢者世帯も増加し、一層経済的な困窮がもたらされることにも留意しておかなくてはならない。こうした現実は高齢者の受診行動に大きな影を落とすものとなる。
 収入が最低生活費(生活保護基準)未満の高齢者世帯数は、20年前の211万世帯から534万世帯(2015年の総務省統計、全世帯数の28.3%)と2.5倍を超えている。
 貯蓄や金融資産の状況をみても、蓄えなしの高齢者世帯の割合は60歳代で29.3%、70歳代以上では28.3%であり、保有していても公的年金に頼っている低収入世帯ほど貯蓄額が少ない(金融広報中央委員会の調査)。
 ということは、十分な収入や金融資産が少ない高齢者世帯では不測の事態(病気や災害)が発生した場合に遅かれ早かれ生活が困窮することになる。
 経済情勢や社会保障が今のままで推移するならば、2035年には実に生活困窮世帯は全高齢者世帯の約3割になると推計されている(日本総研の調査)。
 今日の高齢化の進行は、同時進行的に生活困窮者世帯が増えることになり、医療・介護保険制度や生活保護制度などの社会保障に深刻な影響を与えることになる。
 さらに、団塊ジュニアの世代は親たちに比べ非正規雇用の率が高いという統計がある。そのことから2035年以降になると、今よりも低年金、低貯蓄のため高齢者の貧困と格差が一層拡大することになるとの予測もあり、この放置こそが真の「後の世代にツケを回すことになる」事態であろう。
 このような事態を打開するために必要なことは、国として高齢者やその予備軍の年金収入を増やすか、保険料などの生活必要経費を軽減することが必要になる。その財源確保のためにも、この20年間引き下げてきた法人税率を元に戻して大企業の内部留保にストップをかけ、累進的所得税を復活し、一方で現役世代の実質賃金を増やしていく流れを作り、非正規から正規への雇用転換を促進していくことが必要である。このことで社会保険料の増収にもなることも明らかである。
 来年10月には消費税10%への引き上げが予定されているが、今のように年金が減り続け、賃金の増がない中での消費税アップはデフレ経済不況を長引かせるだけである。