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【2013.5月号】IT番号制管理社会は本当に幸せな社会か

 われわれ国民にIT番号を割り振って、給与支払い報告書、住民票、納税や年金や健保の保険料納入、さらに社会保障給付の情報を一元的に管理することを内容とするいわゆるマイナンバー法案の審議が始まった。
 安倍首相は「社会保障・税番号制度は、より公平な社会保障や税制の基盤ともなるもので、国民の利便性の向上や行政の効率化に資する」と述べ、3年後の運用開始を期するとしている。
 その仕組みは、まず「番号通知カード」が各個人あてに郵送され、その通知カードと引き換えにICチップが付いた顔写真付きの個人カードを受け取る。そのカードを提示して税の確定申告や年金給付申請や給付額の問い合わせに利用できるという。
 また健康保険の被保険者番号と連動させれば、高額医療費の還付請求が簡素化されるといった喧伝もされた。
 確かに行政サイドでは、例えば住民税の計算で給与支払い報告書と住民基本台帳との確認照合作業が簡単になるメリットはあるだろう。また不動産売買や株式取引の際の所得が合算されやすくなり、所得税の計算に利便性があるだろう。
 しかしながら逆に、国民にとってのメリットとは何かがはっきりしていない。先に挙げた高額医療費の還付に便利というが、健康保険番号との一体化が前提であり、これには個人にかかわる医療情報の漏えいというリスクを背負うことになる。
 しかも法案の附則には、法施行後3年を目途に共通番号制の「利用範囲の拡大、特定個人情報の提供範囲の拡大、情報ネットワークシステムの用途の拡大」を検討するとされ、個人カード情報の民間活用に道を開く内容となっている。
 こうしたことから日本弁護士連合会は、個人番号の流出がその個人の様々な情報の流出を防ぎえないとして、現法案に不賛同の立場をとっている。
 この番号制が導入されている米国や韓国では、個人情報を取引する闇市場が形成され、情報の流出や成りすまし犯罪が後を絶たないと報じられている。わが国でもPC遠隔操作でのコンピューターウイルス事件は記憶に新しい。国の機関を狙ったサイバー攻撃も日常化している。このようにITと社会的、国際的犯罪は現代社会が避けて通れない問題なのである。
 しかしこのマイナンバー法案をめぐる本当の問題は別に存在する。
 それはこれからの日本が、この番号制のために毎年何千億円という膨大な予算に群がる国際的IT産業の支配下に置かれかねないという問題であり、国民の所得、納税、健康情報などのすべてがIT管理下に置かれるという恐怖ではないだろうか。
 税金の徴収に不正はあってはならず、社会保障給付にいささかの疑惑もあってはならない。しかし、今のままの番号制社会、IT管理社会が本当にわれわれの社会生活を豊かにできるのか疑問である。国民の基本的な権利と義務を尊重した社会の実現があってこそ、本来のITを自由に使える社会が到来するのではないだろうか。