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【2019.3月号】地方自治体の首長や議員に何を期待するか 住民の安心・安全な日常を守る自治体行政を

 いよいよ一斉地方選挙が始まる。
 私たち市民が地方自治に期待するもの、第一には、一見保守的に見えるかもしれないが、安心・安全の日常の暮らしであろう。
 わが静岡県も他県と競い合うように利便性を求めてさまざまなインフラ、ハコモノが長年にわたって作られてきた。しかし一方では、様々な生活上のリスクがあまり目に触れない形で存在していることも事実である。
 典型的には浜岡原発再稼働問題がある。福島第一原発で証明されたように、いったん原発の破壊的事故が起こると、取り返しのつかない事態を引き起こす。浜岡も1、2号機は廃炉になったとはいえ、100万キロワット級3基という巨大な施設である。想定されている南海トラフ巨大地震の自然の破壊力は人工的な安全技術をはるかに凌ぐ力を持つことは否定しようがない。
 その脅威に対応する現状の原子力災害時の緊急時避難計画に、放射線曝露から最も防護されるべき小さな子どもや妊産婦の避難に安全・安心な避難計画が確保されているとはとても言えない。現行計画の避難所では、熊本地震がそうであったように安心して授乳もできないし、泣き声を気にして屋外や車中で過ごす家族が多いことは十分予想できる。原子力災害時はもちろん一般の災害でも母子避難所の計画が欠かせない。
 平常時の安全・安心の保障である医療体制はどうか。現在の地域保健医療計画では、削減対象の急性期病床はともかく、回復期から慢性期に必要な病床の不足が予測される。さらに退院後の在宅医療を保障する地域包括ケアシステムの構築となると見通しは不透明で、訪問医療や訪問看護体制の将来には暗雲が立ち込めている。
 先ごろ厚労省が公表した2036年時点、つまり後期高齢者が最大となる時期の医師数予測を見て驚いた。わが静岡県は医師確保が順調に進んだ場合でも400名ほどの医師不足、もし医師確保が遅れたら全国で5番目に多い2200人近い医師不足が見込まれている。厚労省は過剰地域から医師の移動を期待しているようだが、在宅医療のもう一方のキースタッフである訪問看護師数の将来推計はどうなっているのか、気になるところである。
 おそらく県内で訪問診療が可能な地域は、医師の高齢化や訪問看護師の不足から相当数絞られるであろう。これは地震と違って必ず20年以内に生じる事態である。
 こうした生活不安がある地域ではますますの人口減少になるのは目に見えている。住民の数に見合った医療や介護などの生活基盤の整備が計画的に必要である。
 生活のしやすさでは住民同士のつながりや高齢者をめぐるセーフティ・ネットワークが健康寿命にも影響する。最近、東京医科歯科大の研究者から、車の利用がなく、住居の近くに食料品店がない高齢者の死亡率が1.6倍高いことが報告され話題になった。県内にはすでにそういう地域が生まれてきており、これなどもまさに地方自治の重要な課題であろう。住みなれた地域で最後まで生きることを望む高齢者を守り、そうした高齢者の孤立を防ぐ時代が確実に到来している。
 高齢化とともに増加する認知症の高齢者が安心して住めるまちづくり、これも地方自治体の力の発揮が求められるところである。「認知症の人にやさしいまちづくり条例」を制定した神戸市など先進的な取組を参考に、静岡でも新たな動きを期待したい。
 さらに、高すぎる国保料、払いきれない国保料の問題も、すべての地方議員に突き付けられている問題である。これには全国知事会の1兆円公費投入の要望を基本に、人頭税である均等割を廃止する方向での自治体からの運動が最終的に国を動かす力であることは間違いない。
 水道民営化やカジノ誘致といった「今だけ、金だけ、自分だけ」の首長や議員は退場させ、住民に寄り添う自治体づくりを目指す、地方政治家の奮闘を期待したい。