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【2021.5月号】デジタル改革関連法案の今国会成立に反対する

 4月6日、コロナ禍の第4波が懸念されているさ中、菅内閣の総選挙対策として急遽準備された「デジタル改革関連法案」の63法案が衆議院を通過した。
 参議院で法案が成立すれば衆議院議員任期前の9月にも「デジタル庁」が設置され、その長は内閣総理大臣で、デジタル庁担当大臣は庁の事務を統括する役に過ぎず、首相に権限が集中する異様な行政機構が出来上がる。
 ではデジタル改革とはなにか。資料として公表された「デジタル・ガバメント実行計画」を見ると、国民はユーザーとして位置づけられ、「デジタル化を進める上で重要なのは、住民の本人確認をオンラインで行うことである。市町村長による確かな本人確認を経て発行される最高位の公的な本人確認ツールであるマイナンバーカードの普及拡大が社会全体のデジタル化のカギを握っている」とされており、国がいかにマイナンバーカードの普及に執着しているかがわかる。本人確認には暗証番号のほか、顔、指紋、虹彩といった生体認証用データも収集・保有するようで、これで健康保険証の本人確認に暗証番号に加えて顔認証が入ることになったようである。
 また、マイナンバーと預貯金口座の紐付けを促進することも規定され、自治体が人権を配慮し慎重に進めてきた個人情報保護条例は国の要件以上の規制が禁止され、民間業者の保護義務も国の要件を満たせばよいことになり、結局は国への情報集中が強化されることになっている。
 降って湧いたようなデジタル化への急速な動きに、国民の最大の心配は、インターネット(IT)社会の枠組みに強制的に組み込まれ、そこでの個人情報が特定の巨大IT企業に集約されていくという社会の到来にある。この結果、国民の志向、消費動向や趣味、資産財産、収入、貯蓄から健康状態までが丸裸にされる総監視社会になるのであろう。
 当然ながらこうした情報のデジタル化は、常に情報漏洩のリスクというマイナス面を合わせ持つ。例えば、今後はマイナンバーカードに健康保険証だけでなく特定健診や薬剤情報、検査情報などとの紐付けがされるようになるが、一方でこうした機微な個人情報が個人の知らない間に流出したり、IT関連企業のマーケット「情報」として利用されるかもしれない。個人のプライバシー保護は歴史的遺産として残されるだけの遺物になる可能性もある。
 今、スマホの検索履歴情報は、寡占的なIT通信大企業の「財産」になっており、日々進歩する人工知能によってさまざまな分野に利用されているという実態がある。なかには人々の移動情報など、新型コロナのようなパンデミックの対策に有用な情報を提供する可能性もある一方で、個人への誹謗中傷、差別的排撃、あるいは政治的意図を帯びた世論誘導に利用されるフェイクニュースの拡散という反社会的な行動の実例も散見される時代である。
 本来、ITを活用した情報の公開は民主主義社会の成熟に寄与するものと期待されてきた。その意味するところは、権力者や官僚などによる情報独占を許さず、不都合な事実の意図的隠蔽を許さない可視性、透明性を期待されてのことであった。しかし最近のわが国の政治的不祥事を見ると、権力者に忖度して情報を隠蔽する事例があとを絶たず、わが国の政府は大いに信用を失っている。
 こういう問題が未解決のまま、国会の審議も短時間で切り上げ、国民に十分な説明なく、多くの国民が新型コロナ禍で身を護るのが精一杯の中、デジタル化法案の成立を強引に進めることは許されず、今国会での成立は見送られるべきである。