主張

ここから

【2021.9月号】新型コロナウイルス感染者の自宅療養には最大限の配慮が必要である

 デルタ変異株の増加で、自宅療養者(待機者)が全国で12万人に迫り、中等症ないし重症化する恐れのある患者の入院ベッドが不足し、自宅療養者が増加する恐れが現実となった。首都圏の4都県では7月以降、少なくとも18人が自宅療養中に亡くなるという事態にもなっている。この犠牲者は50代以下が9人で半数を占め、8月に入って15人と急増している。中には夫と子どもと3人家族全員が新型コロナに感染した糖尿病を持つ40代の女性が、医療対応が遅れて死亡したケースも報道されている。
 8月20日より緊急事態宣言下に入った当県も、首都圏で起こっているこのような悲劇的事態が波及してくる恐れが十分あると考えなければならない。
 こうした状況に対応するために、中等症以上の新型コロナ患者をいつでも収容可能な急性期病棟の空きベッドを確保することが求められている。
 このためには、現在入院中の一般患者で地域包括ケア病棟等での治療が可能なまでに回復した患者は早期に転棟・転院させ、病態が安定期に入って退院が可能な患者であれば訪問診療や訪問看護で支える体制を作り、空き病床を確保して入院が必要な患者を入院させられないという事態を防ぎたい。
 2回のコロナワクチン接種を終えていても、数%の感染者が発生しているという国内の報告も出ているなかで、我々医療人として、手一杯の保健所任せにせず、県民の健康を守る対策を発信していかなくてはならない。
 自宅療養者への訪問診療を安全に行うためには、居住条件と家族介護の条件がよいことが重要である。患者が居宅で隔離された生活ができ、他の家族と1m以上のディスタンスが取れ、換気可能な居室でなければならない。そのような条件に欠ける自宅療養は、家族内感染はもちろん医師や看護師でも感染リスクが高いのであり、必ず施設収容にすべきである。
 忘れてはならない条件は、自宅療養に理解のある介護者(同居者)がいることである。老々介護はリスクが高く、障がい者との同居もリスクがある。そのようなリスクのある場合、自宅療養者に選定すべきでなく、訪問診療・訪問看護は困難であるといわざるを得ない。
 このような場合、入院病床が見つかるまで一時的な療養ホテル等への移動もやむを得ないが、若い人でも、肥満者、糖尿病者、重度喫煙者の場合は重症化のリスクが高いことを考慮し、病床が空き次第入院させる必要があるだろう。
 医療崩壊が現実に差し迫っている中では、自宅療養者を診ていかなければならない事態もあり得るが、それ以上に医療従事者を守ることも重要である。
 医師・看護師不足の当県では急に感染症ベッドは増やせない。現下の条件で考えられる最善の対策を立て、県民の命を守ることが求められている。