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【2022.12月号】介護保険の利用者負担増は高齢者やその家族を追い詰める

 8年前の年4月から、70歳になった高齢者の医療費窓口負担が1割から2割に引き上げられ(1段目)、この10月からは後期高齢者のうち、これまで約7%の窓口3割負担者に加えて、約20%にあたる人が原則2割負担となり(2段目)、結局70歳以上の高齢者の50%強が医療費で2割ないし3割負担となった。まさに高齢者医療費負担増時代に入った。
 さらに今、社会保障審議会では3段目の負担見直しとして、介護保険の利用者負担増計画が検討されている。この中心は利用料の原則2割負担である(今でも4%が現役並み所得で3割、5%が一定以上の所得者で2割、合わせて9%は2~3割負担である)。
 そのほかにも検討課題とされているのがケアプラン費の自己負担導入、要介護1,2の訪問・通所介護の給付を要支援並みに市町村の地域支援事業への移行、杖や歩行器の貸与の中止(結局自費購入へ)、などである。
 この負担増計画がどのような社会的影響をもたらすのか、社保審のメンバーは真剣に検討しているのだろうか。大手のマスメディアも介護保険制度の見通しの財政的事情を厚労省サイドからの情報を垂れ流しているだけで、このまま負担増がすすめばどうなるのかを分析し報道しているとは思えない。
 民間団体である全日本民主医療機関連合会が行った緊急影響調査によると、施設入所者でも在宅サービス利用者でも、2割負担になっても引き続き利用可能と答えた利用者は約7割という結果である。ということは、利用者の3割は施設からの退所を考えたり、在宅ではサービスの利用減を考えるということである。中には「貯金が尽きるまでしか生活できない」という不安や、「利用料が上がるまでに天命を願う」といった切実な回答が寄せられたという。
 この調査結果からは、2割負担や自己負担導入のサービスが増えても家族からの援助で利用継続が可能と見込む人であっても、負担増が将来の不安を増大させる可能性があることが明らかになったということである。
 高齢者の介護を家族の負担から解きはなし、公的保険制度の導入で老後を保障するというのがそもそもの介護保険の発足の理念であった。発足後23年経った今、その理念が忘れ去られてきているのではないか。
 高齢者が、忙しく働いている家族に気兼ねなく、また家族のいない一人暮らし、二人暮らしの高齢者も安心して暮らせる社会が近代的国家である条件であろう。このためには社会的支えが充実していなければならないが、政府は公的負担を減らそうとばかり考えているようであり、税金の使い道を誤っていないかと考えざるを得ない。
 介護福祉事業そのものが国の一大産業でもあることが明らかな今日、高齢者の負担増が結局介護離職を促進し、消費増を含む国民経済の活性化のマイナス要因になることが識者からも指摘されている。
 対話よりも武力に訴えるような前時代的な政治の方向を変え、周辺諸国との友好、そして介護制度をはじめ国民生活の充実を図る優しい経済政策こそ近代国家の証であり、平和で安全な国を目指す将来像ではないだろうか。