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【2023.5月号】「国民皆歯科健診」の法制化は、歯科健診制度の充実に繋がるか

 2022年6月7日に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」に「国民皆歯科健診」が盛り込まれた。これは、国民が年代を問わず歯科健診を受けられる制度を創設するもので、全世代での歯科健診を生涯に渡って制度化することで、お口の健康を守ることが目的とされている。
歯科では国による健診制度が医科と比べて不十分であることが否めないので、「国民皆歯科健診」の法制化は歓迎できる。

-歯科健診の現状は-

 では歯科健診の現状はどうであろうか、母子保健法による1歳6ヶ月健診、及び3歳児健診、学校保健安全法による学校歯科健診、健康増進法による40、50、60、70歳の歯周疾患健診、労働安全衛生規則による塩酸や硝酸等の歯や口腔組織に有害なガス、蒸気、粉塵を発散する事業場で業務を行う労働者に対する健診しか法定の歯科健診はない、また職場における歯科健診も一部の大手企業や公官庁での実施に留まり多くの中小企業では行われていないのが実情であろう。

-「国民皆歯科健診」はどの様なものになるのか-

 法制化を目指す自民党プロジェクトチームの事務局長・山田宏参議院議員は、財務省の「歯科医師が健診を行うと8千億円かかるので出せない」という見解から「まずは、スクリーニングし、受診につなげる仕組み」が考えられると発言している。スクリーニングとしては、現在唾液による本人が行う簡易検査が検討されている。つまりダイレクトに歯科医師による健診にはならないというコンセプトである。
 仮にスクリーニングで健診の必要性が示されたとしても、果してどのくらい実際の健診に移行するのであろうか? 今でも一部に根強く存在する「歯科嫌い」の国民が果して歯科医師の健診を受けるであろうか? つまりは本人の自覚や価値観に左右されるのではないか?スクリーニング等という不確実な「ワンクッション」を挟まずに最初から歯科医師による健診とした方が受診率も向上するのではないか?「低予算」前提の「国民皆歯科健診」では果して目的とする「お口の健康を守ること」が達成されるのか?「8千億円の初期投資」で多くの早期治療が実現すれば結果としてその後の歯科医療費が大幅に削減されるのではないのか?
 国民が高齢になっても自分の歯で食事が出来ることで食べることの楽しみを増やし、長寿にもつながるのではないかと思いたい。「国民皆歯科健診」が今回の法制化を機会に実りある制度となることを願いたい。