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【2012.4月号】国民に理解されない「マイナンバー法案」は拙速に過ぎる

 野田政権が「社会保障と税の一体改革」に先行して実施するとしていたいわゆる「マイナンバー法案」が国会に提出されている。
 これは、個人所得の情報、国税、地方税などの納税額の情報、医療、介護、年金など社会保険制度の給付と負担の情報などを、共通の番号を付けてデータ化し、国が管理するという制度を、2015年1月から導入するとしたものである。
 国民の間には、医療保険など公的保険の自己負担の「総合合算制度」や、消費税増税に際して導入するとしている「給付付き税額控除」など低所得者対策として有用ではないかという意見もあるかもしれない。
 しかしながら現時点では、政府の説明に反して実務上の手続きの簡素化以外にはその具体的な中身は提示されていない。
 そこで、今関心を持ってみておかなければならない問題点をいくつか挙げておきたい。
 第一は、この制度の導入のために数千億円の国家予算を投入しようとすることである、大震災の復興もままならず、福島原発の事故収束や汚染除去も不透明な中で、すべて国民負担となるこれだけの巨額な国家資金を投入していいのか、という点である。たとえ所得漏れを捕捉して税収を上げたとしても、投入する予算額、維持管理費用には届かないであろうという識者の意見もある。
 第二に、これだけの個人情報を管理する国家体制が本当に必要なのか、それだけの国家管理を必要とする国家百年の将来像が国民に認知されているのかという問題である。
 第三に、個人情報管理の問題である。これらの情報を商機に流用しようと言う企ては資本主義社会の常であり、電子データの情報漏洩の問題、しかも大量の情報がいつの間にか第三者に出回っているといった事態は当然予想されている。これに対する備えは出来ているのか全く見えていない。
 第四に、総合合算制度は「社会保障個人会計制度」にすぐにでも転用されるということである。つまり、所得の再分配に基づく公的社会保障の理念がいつの間にか消えていくという危険である。もしかしたらこれが国民格差を是認する将来国家像の基本になるのかという疑念も消えていない。
 こうした重要な問題について、時間をかけて国会を始め、地方や様々な団体の中で、充分な議論と国民的合意が保障されるべき事柄である。
 以上の理由から拙速な法案提出に異議を唱えたい。