主張

ここから

【2024.3月号】人件費の原資は初・再診料、訪問診療料、入院基本料の引き上げが本筋

 今次診療報酬で医科歯科ともに、初・再診時と訪問診察時に外来・在宅ベースアップ評価料という煩雑な上乗せ額が設定された。その結果、医療機関ごとの医療収入だけでなく、患者の窓口負担に新たな格差が生じることになった。
 人件費の原資である基本診療料の引き上げは保険医の正当な要求である。しかし、新設されたベースアップ評価料という上乗せ方式は我々が望んだものなのだろうか。

複雑な人件費計算
 外来・在宅ベースアップ評価料・の点数が施設基準を満たす全医療機関に上乗せされ、請求額の試算は厚労省が公示する「ベースアップ評価料計算ツール」を用いることから始まる。
 まず、医師や歯科医師と事務職員を除く医療職の昨年2月から本年2月までの給与総額から1月あたりの給与総額を算出する。
 次に、昨年12月から本年2月までの初・再診料や訪問診察料の算定回数(すなわち診療延べ数)から1月あたりの総回数を算出、ここまでの計算で本年6月時点の給与総額に対する賃金増加率が厚労省の「ツール」で表示されることになる。
 さらに、これが1.2%に満たない無床診は外来・在宅ベースアップ評価料・を上乗せして算定することになる。この評価料・は「ツール」の計算式により1~8の8段階の評価料の中から自院に適合する区分の点数を算定するという方式である。賃金増率が2.3%未満の有床診療所や病院の場合、入院ベースアップ評価料を上乗せできるが、なんとこれが1点刻みの165段階になるという複雑さである。
 これまでの改定の4月実施が2か月遅れの6月実施という後ろ倒しの改定になった理由の一端が、こうした「ツール」による計算式の導入にあったのだということが図らずも明らかになったということであろう。

診療所間の新たな格差拡大を危惧
 診療所の99%は個人経営か医療法人による民営である。医療従事者の賃上げのためという理由で、その仕組みに診療報酬表とは別の「ツール」を利用して政府が手を突っ込むようなやり方が本当に妥当なのか大いに疑問がある。その理由は、診療所勤務の医療職員は年齢も経験も様々であり、労働条件も様々で、都市部や地方によっても待遇の諸条件は様々であり、「ツール」に従うという違和感がぬぐえないからである。
 今次改定では、こうしたベースアップ評価料の新設が事前の検証もないままに厚労省の意向で一方的に行われた。この結果、算定をする診療所間に人件費上の新たな格差を生じ、同時に患者の窓口負担額にも格差を生じたことは、診療所経営に余計な負担と混乱を持ち込まないか危惧するところ大である。

人件費の原資は基本診療料の引き上げで
 我々保険医は、医療職の人件費の原資は、初・再診料や訪問診療料、入院基本料などの基本診療料の引き上げで充当されるべきと考えている。今次改定で突如導入されたベースアップ評価料に充当する引き上げ原資は、そのまま基本診療料の引き上げに充当することで充分であったはずである。同じ医療内容でありながら、医療機関の人件費の負担の違いが患者負担にも跳ね返るという在り方が本当に妥当なのかどうか、今後の検証に待ちたい。