主張

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【2016.11月号】介護保険制度の変更・見直しは創設時の理念に沿って行うべきである

16年前に高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして創設された介護保険制度が大きく変更されようとしている。
発足当初の理念は、それまで家族介護と福祉行政の枠組みで行われてきた高齢者への生活支援を、被保険者となる高齢者が「利用できる権利」として位置付けたことである。これによって自治体や民生委員の判断にゆだねなければならなかったサービスの利用が、「介護認定」があればケアマネージャーの算段で「権利」として利用できるようになった。このことで家族介護の負担が軽減されたことは確かであろう。
しかし、高齢化の進展に伴い、要介護高齢者の増加、老老介護、介護期間の長期化など、介護ニーズはますます増大してきた。団塊世代の全員が75歳以上になるいわゆる「2025年問題」が叫ばれ始め、ついには厚労省サイドから「持続可能な」社会保険制度にするという理由で様々な改革案が打ち出されてきた。
 すでに昨年4月からは所得が上位20%を超える利用者の負担が1割から2割となり、さらに要支援者への訪問・通所の介護サービスは2018年3月までに介護保険から切り離されて市町の総合事業に移行することになる。
 今、来年1月からの通常国会に介護保険制度の「改正」案が出てくるのではないかといわれている。これには利用料の一律2割化、要介護2以下の福祉用具利用や生活介護利用の10割化などが検討されるという。
 ではこうした改革案は介護保険制度の理念に沿ったものといえるであろうか。
 こうした利用者負担増の影響は深刻な社会的影響を与えるのではないか。医療と同様、自己負担の重みのため保険料を払いながら利用をあきらめる人が続出しないだろうか。その結果として家族介護や老老介護の負担転嫁が一層進め心配はないのか。こういう問題を政府審議会の委員や官僚がどの程度重視するだろうか大いに心配である。
 介護保険制度は少子高齢社会を目前にした一億総活躍社会のためのもっとも重要なセーフティネットであろう。
働くことのできるすべての人が親や家族の介護の心配をせずに済む社会の到来を期待してつくられた介護保険を、一部の裕福な人のものにしてしまってはならない。
 さらに、高齢者の介護がしっかりしていて初めて高齢者医療が成り立ち、高齢者の尊厳が守られる。現場をよく知る介護事業者の声は社会的にあまりにも小さい。病院団体、医師団体やすべての医療者の組織が介護保険問題に大いに関心を持ち、意見表明をしていかなければならない。