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【2018.5月号】憲法を今改定する必要はない 不足あれば立法で十分でしょう

 昨年5月に安倍首相が新聞紙上に「2020年までに改憲」の意向を示して以来、改憲を巡る動きが加速している。
 安倍首相が示したのは、国の交戦権を認めず、戦力保持を否定した九条に3項を加えて自衛隊を明記する、高等教育の無償化を憲法に明記する、との2点であった。
 確かに自衛隊は憲法のどこにも書かれていないが、それが何故不都合なのだろうか。安倍首相は、自衛隊が創設されて以来、違憲論議があるから決着をつけたいということのようである。国民や自衛隊員から憲法に明記せよという声が高まって最近の選挙の争点になっていたわけでもない。
 これまでも自衛隊については、基地建設(長沼ナイキ基地)や海外(イラク)派遣の問題をめぐって違憲判決があったが、これをきっかけに自衛隊解散論が世論となったとは言えず、九条に違反するような明らかな戦争行為が幸いにもなかったということでもあろう。
 よく考えてみれば、国民の安全を日常的に保障する警察や海上保安庁も憲法にその名を明記された組織ではない。三十三条等で「権限を有する司法官憲」という内容によって自衛隊と同様に法律で規定された組織であり、国民にとって特段の不都合はない。
 憲法は、国民の信託を受けた公務員や国家組織がまもるべき原理、原則を示したものでもある。現行憲法の成立には、日清・日露から太平洋戦争まで続いた侵略戦争の歴史に終止符を打つ決意が込められている。わが国の戦争の歴史は他国から直接侵略されてやむなく応戦したという歴史ではないことは明らかであり、自国の権益のみを押し出し、軍部の独走を許してしまった痛烈な反省に立って憲法がつくられたのである。
 国会議員や内閣はシビリアンコントロールをもって現憲法を守る義務があり、勝手に改憲を提起する権限はない。安倍首相はその点でも道を外しているが、自民党総裁として提起した、といいたいのであろう。しかし自民党であっても国民に信を問うべきあり、任期満了までを考えると総選挙がない2020年までに改憲するというのはあまりに強権的である。
 もう一つ、突然に高等教育の無償化を持ち出したことも合点がいかない。二十六条には教育を受ける権利が謳われ、2項には「教育は、これを無償とする」と書かれているのである。この憲法上の「教育」は義務教育とは明記されていないが、憲法学者によれば高等学校や大学などの高等教育は含まないという明確な見解が確定しているわけではなく、法律でこの範囲を決めればいいだけの話である。
 戦後の歴史の中で、九条を目の敵にしてきた政治家はそうは多くない。保守系の政治家のなかにも護憲派は少なくないはずだが、安倍首相は何故改憲にこだわるのだろうか。
 「軍隊を持って一流の国」というアベノポリシーでなく、「軍隊なき平和こそ一流の国」を目指す、非戦の科学大国こそ、日本の未来ではないだろうか。