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【2018.4月号】「地域包括ケアシステムの構築」に水を差す今次改定の問題点

 新診療報酬がスタートしたが、今次改定には「人生100年時代を見据えた社会の実現」「どこに住んでいても適切な医療・介護を安心して受けられる社会の実現(地域包括ケアシステムの構築)」「制度の安定性・持続可能性の確保と医療・介護現場の新たな働き方の推進」という基本認識が掲げられた。そしてその第一のテーマが「地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進」といわれている。
 しかしながら、いったい新診療報酬のどこが「人生100年時代」に対応しているか理解に苦しむ。人生が長くなればそれだけ体力や知力の低下、とりわけフレイル予防の対策が重要になり、加齢にしたがって当然に病(やまい)も増えざるを得ないが、その対応策が含まれた改定だといいたいのであろうが、実は不安ばかりである。
 医科の話になるが、まず第一に地域医療構想の病床削減とセットでかかりつけ医機能の評価が打ち出された。すなわち、開業医ができるだけ入院に至らないような医療管理の責任を負わされることになる。しかし目玉とされた初診料の機能強化加算80点がどれほどの意味があろうか。それより定期に通院してくる患者の再診料の大幅引き上げこそかかりつけ医機能の維持に必要である。
 第二に、在宅患者訪問診療料の複数医療機関算定が認められたが、一連の治療で月1回、しかも6か月を限度という。この一連の治療6か月限度の発想こそ「人生100年時代」に対応していない考え方である。例えば高齢者のQOLを落とす「フレイル」への対応には他(多)科連携が必要になるが、その医学的対応が「一連の治療」の6か月で終わらない事は明らかである。さらに、維持期リハビリの1年後の介護保険への完全移行が強調されたことも「人生100年時代」に対応しない発想の典型である。
 第三に、「地域包括ケアシステムの構築」の成否を握っているのは実は訪問看護師と往診担当医である。しかし当県の訪問看護師不足は深刻である。24時間対応ステーションの数も地域的に限定されている。これでは往診担当医が孤軍奮闘からグループ化に成功したとしても、在宅での看取りに応える在宅医療は成り立たない。在医総管・施医総管の月2回以上訪問の点数削減なども「地域包括ケアシステムの構築」に水を差すような発想としか言いようがない。
 さらに、「ほぼ在宅or施設、ときどき入院」を柱とする「地域包括ケアシステム構築」のもう一つの鍵、在宅療養支援病院や在宅療養後方支援病院の充実は、特に当県では、現在の医療構想がある限り、そして深刻な勤務医不足が続く限り、「絵に描いた餅」である。これは診療報酬の点数の問題ではないかもしれない。しかし今回の入院点数の改編をみる限り、急性期対応である場合でも「診療実績」の評価を落とさないための非医療的「強制力」が働き、高齢者の入院の選別、早期退院が一層進むことになろう。ますますかかりつけ医としての役割が果たしにくくなるような、嫌な予感をぬぐえない今次改定である。
 保険医協会として、地域医療の現実の中で起こってくる様々な保険医療の充実に反する問題を県や自治体に提起し、その解決方向を探っていかなければならないであろう。