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【2020.11月号】地域医療の確保のために、医療機関への特例減税、特例給付が必要だ

 10月14日の社保審医療保険部会に厚労省が提出した4月~6月の概算医療費によると、4月が前年同月比で-8.8%、緊急事態宣言が出された5月が-11.9%、6月が-2.4%であった。6月になって医療費ベースでは持ち直してきたようだが、同時に発表された患者数ベース(=レセプト件数)でみる限り、6月は9.6%減、7月も9.6%減(概算医療費は未発表)と、引き続き深刻な影響が明らかになっている。一部には長期投与の影響もあるが、コロナ禍が本格化した3月が9.2%減なので、コロナが収まらない限り前年比9%台の患者減がしばらく続くのではないかと思われる。
 日医・日歯も保団連も新型コロナを診る/診ないに関わらず、全医療機関の減収補填が必要として公的支援を求めているが、Go to トラベルやGo to イートだけが突出し、菅政権の地域医療対策への熱意が少しも見えてこない。
旧政権下で成立した補正予算で、コロナ対策で前線に立つ医療機関には様々な支援金が考えられているが、その後方で多くの患者を見ている地域医療機関の確保に見合った補填がされる見通しはいまのところ期待薄である。
 医療団体は夏季賞与の支給に間に合うように前年実績をベースの概算払いの要求をしたが、後日精算という形になるためか利用した医療機関は少数にとどまった。しかし当協会の調査でも、この時期に政策金融金庫や医療福祉機構からの借り入れに踏み切った医療機関も少なくないことが判明している。これから職員の年末賞与を控え、差し迫った経営問題に直面している地域医療機関にとってこの間の減収の補填が出来るかどうかは深刻な問題である。
 この間、各方面からいろいろな救済策が提案されている。例えば奈良発の地域別診療報酬導入による単価引き上げ案があるが、これは逆に単価引き下げに道を開くリスクも有り賛成できない。患者負担増にならない案として神奈川協会は減収率でレセプト請求額に上乗せする案を出しているが、一時的ではあっても患者数=医療収入によって医療機関ごとの診療単価が違うことになる不公平感の克服は難しい。
 特例的には、減収が50%にもなる小児科の救済策としては小児科外来診療料の2倍近い単価引き上げが必要である。この場合は中学卒業までの窓口負担の免除を前提である。
 このまま減収補填がなされない場合、社会保険医療は非営利の公益的事業であることから、まずは医療機関にかかる法人税や個人経営の場合の所得税の特例減税、特例給付を要求したい。
従来から中小企業者の法人税には災害や不況など欠損金を生じた場合の法人税還付制度がある。これと同様に、今回のコロナ禍は医療機関側の事情によらない理由で生じた減収であることから、前年度の医療事業収入があったものとみなし、課税相当額の還付、すなわち特例減税、特例給付を求めたい。また今年度新規開業の医療機関にもそれに準じた特別給付を求めたい。
 医療機関の経営危機をこのまま放置するならば、そこから発生する歪みが地域医療にとってさらに脆弱な供給体制がもたらす危険性がある。これは住民にとっては医療を受ける権利の制限を意味するであろう。
 今回の事態は、地域医療の確保のためには時限的、緊急的救済措置が必要なことを示している。医療界が一致して新政権により強い要求をすべきときである。