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【2021.12月号】リニア中央新幹線工事は中止の決断をすべきである

 2007年末にJR東海が「自費建設」を宣言し、国会での審議を回避して建設に踏み切ってから14年が経過した。2015年12月に名古屋市内で着工して6年になろうとしている。
 この間、2011年には東日本大震災が発生し、2013年には、歴史的に100年から200年に1回発生しているという南海トラフ巨大地震も今世紀中頃までに7~8割の確率で起こることが政府の地震対策本部から発表された。
 こうした中、2013年9月になってJR東海が公表した環境影響評価が大きな問題となっている。それはルートで予定された南アルプストンネル工事で、毎秒約2トンの大井川河川水量が減少するという推定である。この大量湧水の原因は長野静岡県境にある幅800メートルの破砕帯に起因することも様々な調査で判明している。
 この毎秒約2トンという水量は、大井川流域8市2町の約60万人の生活用水に相当する水量なのである。まさに毎年の渇水により取水制限が行われている住民にとって死活問題である。またこの大量湧水問題は、2014年にユネスコのエコパーク(生物種保存地域)に指定された南アルプスの自然保護問題に大きな影響をもたらすことがわかっている。
 さらに、その後JR東海の報告書で判明したことは、トンネル掘削による残土を大井川上流の地すべり地帯に隣接する燕沢に盛り土にして処分地とすることである。このことは下流域の土石流災害の危険性に直結しかねないという問題にもなっている。
 そもそもルートの80%が地下トンネルというリニア地下鉄新幹線が、断層のずれを生じるような大地震に耐えられるのかについても明確な安全性の確認がされていない。
 振り返って、JR東海が中央新幹線建設の理由に挙げた①東海道新幹線の輸送能力に限界がきている、②同新幹線の経年老朽化で代替路線が必要、③東京―名古屋―大阪間の大幅な移動時間の短縮という3点についても、大きな疑問があるのである。
 仮に①と②があるとしても、今のような地下トンネル方式や大量の電力消費となるリニア方式である必要はない。また新型コロナ禍で国民が経験したことは、新幹線は今ほど本数がなくてもよいこと、③でいう大幅な移動時間の短縮は無用である、ということではなかったか。
 先の県知事選挙で川勝知事が圧勝した裏には、静岡県民が東京や名古屋などの大都市圏への人の集中政策の犠牲になることは望まないという意思表示であろう。
 経済的にも無駄でリスクの多い工事を止めることは今からでも決して遅くない。今まで掘ってきたトンネル工事が無駄になるといって強行することは、かつて無謀な戦争を止められなかった誤りをまた繰り返すことに等しい。
 リニア新幹線工事を中止し、②の代替路線・輸送手段について時間をかけて再考することが後の世代に対して唯一の責任ある行動であり、撤退こそ勇気ある選択である。