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【2022.9月号】オンライン資格確認システム導入原則義務化の強権的、拙速な手法は断じて認められない

 8月オンライン資格確認システム導入原則義務化の動きが急展開した。既に8月22日に会員へ対しFAX速報で周知させていただいたが、ここで改めて再確認したい。
 一番問題なのは、2023年4月からの原則義務化が「保険医療機関及び保険医療療養担当規則(以下、療担規則)」の中に盛り込まれることである。これが何を意味するのか。
 私たち保険医療機関に診療報酬が支払われる要件の一つに「療担規則の尊守」が謳われている。つまり、2023年4月以降、オンライン資格確認システムを導入しない場合には、療担規則違反とされ診療報酬が支払われない可能性並びに、保険医療機関及び保険医の取り消し等の「処分」対象とされる可能性も考えられる。
 現在、紙レセプトで請求を認められている保険医療機関は原則義務化の例外とされるが、ここにも問題がある。政府・厚生労働省は将来的に保険証を廃止し、保険証機能を持たせたマイナンバーカードに集約する方針であり、保険者の中には早々に保険証発行のコスト削減から保険証の発行を止める所も出るであろう。そうなれば、原則義務化の例外医療機関は、保険証を持たない患者からは保険証の呈示が無いため資格の確認が出来ず、保険診療が実施出来なくなる可能性も考えられる。このように療担規則へ原則義務化の内容を追加することは、保険医療機関及び保険医への大きな「圧力」であり「脅し」とも受けとめられる。
 また、8月中旬には「オンライン資格確認医療機関等向けポータルサイト」へアカウント登録を行っていないと思われる医療機関向けに、厚生労働省と社会保険診療報酬支払基金の連名で「登録のご案内」なる郵便物が「書留」で届き、アカウント登録と顔認証付きカードリーダーの申し込みを迫ってきたことも医療機関へ大きな混乱を招いていると言えよう。
 医療以外のあらゆる分野でもマイナンバーカードの普及促進は強引に行われている。以下一例を紹介する。筆者が偶然遭遇したハローワーク主催の雇用保険(失業保険)受給説明会での出来事である。「雇用保険受給時の本人確認は、マイナンバーカードのみです。運転免許証ではダメです。」と説明している声が、換気のため開放された扉の奥から聞こえてきた。現在マイナンバーカードを所持していない人でも、保険受給のためなら率先してカードを作ってしまうであろう。何と姑息な普及促進方法であろうか。
 さて、ここまでしてマイナンバーカード普及やオンライン資格確認システム導入の促進を図っている政府・厚生労働省であるが、8月14日付けでの静岡県のオンライン資格確認システムの運用医療機関数は、医科で595件・参加率25.8%、歯科で308件・参加率17.1%に過ぎない。また7月31日現在での全国のマイナンバーカード交付状況は人口比で45.9%であるが、さらに、マイナンバーカードを保険証利用できるように登録している数は、人口比で13.5%に過ぎない。原則義務化まで7か月を切っている現状で、物理的にも実施が困難なのは明らかである。来年4月までに原則義務化という実現不可能な「ゴール」の設定の見識を疑わざるをえない。
 社会のIT化の流れからすればオンライン資格確認システムの導入は時代の流れであろう。しかし政府の強引な拙速な導入義務化は断じて認められない。それでも強制的に義務化するのであれば、システム導入・維持費用を国が全額負担し、システム導入後のシステム障害や情報漏洩等のセキュリティ事故に対しての責任も政府が全て負うべきである。