【2025.5月号】歯科衛生士による浸潤麻酔には注視が必要
昨今、歯科衛生士による浸潤麻酔をめぐる情勢が動いている。2月25日に開催された厚労省の第二回「歯科衛生士の業務のあり方等に関する検討会」で歯科衛生士が歯科診療の補助として行う浸潤麻酔行為への対応方針や研修内容等について大筋で合意がされた。今後詳細が決まっていくであろう。
歯科衛生士による麻酔は合法なのか?
1965年に発出された日本麻酔学会会長あての厚生省(当時)医務課長回答(医事第48号)によれば「麻酔行為は医行為であるので医師、歯科医師、看護婦、准看護婦、または歯科衛生士でない者が、医師、歯科医師の指導の下に業として麻酔行為の全課程に従事することは医師法、歯科医師法、保険婦助産婦看護法又は歯科衛生士法に違反するものと解される」と記載されている。また1986年の日本歯科医師会による「歯科衛生士の業務範囲についての調査報告書」にも歯石除去術で行う鎮痛目的の浸潤麻酔は歯科衛生士の能力に応じて指示してもよい業務だと明記されているが、歯科衛生士法等関連法規には一切法的言及がない。
既に行われている動き
日本歯科麻酔学会認定歯科衛生士制度、これは試験を受けて法律や歯科麻酔学に関する高い知識技能を有すると認められる歯科衛生士の資格制度である。また一般社団法人日本歯科医学振興機構による臨床歯科麻酔認定歯科衛生士の認定制度もスタートしている。
実施にあたっては
この事がクローズアップされるようになり臨床現場でも様々な意見がきかれる。「歯科衛生士のモチベーションが上がる」、「浸麻からSRP(歯肉内の歯石除去)が歯科衛生士だけで完結する」と言った賛成派、「事故時の責任を歯科医師が負わなければならない」、「歯科衛生士が尻込みしている」という反対派の意見までである。しかし義務化ではないので実施にあたっては医院長の判断で個々に対応すればよいのではないか。
これから研修内容が具体的に決まって行くであろうが、単に手技だけでなく生理学、薬理学、解剖学、、全身的な偶発症と対応等幅広い講義と実習を組み合わせた総合的な研修は必須であろう。講義と実習の講師の資格や研修施設の認定も必要となろう。またこの麻酔が歯石除去時に限定されている事の周知徹底や、事故時の責任の所在の明確化また患者への理解を深める取り組みも必要であろう。
何れにせよ、これから決まるであろう制度の詳細については注視が必要である。