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【2025.10月号】地域医療構想を実のあるものにするために必要なこと

 昨年度からスタートした厚労省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」での地域医療構想ガイドラインの作成が近く予定されている。
 地域医療構想というと、各県の診療圏ごとに病院の機能別の必要病床数や、医師数の需給状況を算定させ、ともすれば過剰病床の削減や医師の偏在是正を図るといった、結局は医療費削減のための「上から目線の指針」というイメージが拭えないでいる。
 この構想の行方は国民、とくに医療従事者にとっては将来の医療や介護の環境、社会保障の内実に直接かかわることになるので無関心でいることはできない。

 7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2025」には、「地域医療構想については、地域での協議を円滑に進めるため、医療機関機能・病床機能の明確化、国・都道府県・市町村の役割分担など、2025年度中に国がガイドラインを策定して2026年度以降の策定を支援する」と明記されている。
 本来、社会保障は、所得再分配を通じて分断の根底にある社会的、経済的格差と差別を最小限に抑えるために必要不可欠なシステムであり、そのことによって産業革命後の資本主義体制下の社会発展、民主主義を支えてきたのである。
そういう視点から現状を見たとき、地域医療構想の中身として待ったなしの対応が求められる課題がいくつか浮かび上がる。
・少子化や未婚率増を背景に生み出される高齢者のみの家庭や介護困難家庭への支援体制を、社会組織としてどう作れるのか。
・介護保険サービスの根幹である訪問介護事業所の空白地域が全国的に増加している問題をどう解決するのか。
・住み慣れた在宅での療養を支える訪問診療にかかわる診療所(医科・歯科)の医師数は、将来見通しで十分に確保される計画になっているか。
・期待される在宅での看取りが格差なく全地域的に対応可能なのか。在宅医療に不可欠な訪問看護ステーションの設置、人員体制は十分なのか。
・病床数の削減計画の中、在宅療養をサポートする地域包括ケア病床の稼働、機動性の確保は十分なのか、地域に開かれた在宅支援病床になっているのか。

 ちょっと考えただけでも上記のような地域格差による困難課題があり、診療所や介護事業所まかせにしていたのでは解決は困難である。こうした社会的課題、つまり「骨太の方針」でも強調される「誰一人取り残されない社会」の実現は、国や自治体の明確な方針、わかりやすい手立てが打ち出せない限り空手形に過ぎない。
 わが国を近代福祉国家というなら、国税収入を適切に使ってこうした格差や差別を解消する社会的課題の解決を図らなければ、いくら医療DXやAIによる効率化を訴えても、未来の希望を託せる政治への信頼は生まれないであろう。