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【2026.4月号】このままではがんの治療を諦める人が確実に増えてくる

 昨年、前石破内閣がいったん出した高額療養費負担の見直し案を凍結して以来、がんや難病患者団体も参画しての議論が厚労省の専門委員会で行われてきた。その中で患者負担について「年間上限の創設」や「多数回該当を据え置き」といった方向性が確認されたのは評価できるとして、所得区分の細分化で実質的な負担額が増える場合も多くなるのではないかという専門家の意見も聞かれるのが心配であった。
 ところが石破政権を受け継いだ高市内閣が総選挙を仕掛け、高市旋風で与党勝利の予測が流れる中、これまで議論の俎上にのせられたことがなかった高額療養費制度において2年ごとに検証するという制度を創設するという方針が報道されたことで、患者団体からは不安の声が上がっている。
 全国がん患者団体連合会の天野会長は「2年ごとに見直す、という話は専門委員会でも寝耳に水」「2年ごとに引き上げるつもりでいるのであれば正気の沙汰ではない」と怒りを込めて語っている。
 今でもがん患者の中では経済的に「破滅的医療支出」とWHOが定義している、すなわち、収入から生活費を差し引いた残りの40%を医療費支出が超える世帯が少なくないという。そうした世帯の人は、治療の継続を諦めざるを得ないというわけである。
 これは単に低所得世帯だからというわけではないことに注意が必要である。中等度の収入があるとしても、住宅ローンの支払い、子どもの教育費や親の介護費用といった生活費の負担が多い世帯では、残りの40%が高額医療費支出に耐えられなくなる可能性が現に生じている家庭が少なくないというのである。乳がんや子宮がんと言った女性のがんは30代から発症することが多いため、生活費も必然的に多い世代が当事者となる。深刻な病気を抱えていなければ就労も可能であるが、高額医療費を抱えるようながんや難病では就労も困難である。まさにこうした世帯を経済的に直撃しかねない制度を創設しようという案が取りざたされているのである。
 高額療養費制度は日本国憲法の下での社会保障の一環としての皆保険制度の中で、最も頼りになるセーフティネットであり、世界の中でも誇れるものである。しかしこういう案が政府側から出されてくるとすれば、日本の官僚や政治家は何を考えているのかということになるであろう。
 そしてこのようなセーフティネットの充実は実は現役世代のため、若い世代のためでもあることを訴えなければならない。野党の一部には選挙目当てなのか、現役世代の手取りを増やすためには患者負担を積極的に容認する向きがあるが、極めて危険な傾向である。
 全国保険医団体連合会や県保険医協会はこうした「今だけ、金だけ、自分だけ」の動きに警鐘を鳴らし、がん患者団体、難病患者団体と共に、セーフティネットの崩壊を許さない世論の形成に力を注いでいきたい。