【2026.8月号】「現役世代の社保負担減」の行きつく先はどうなるか
高市内閣は今年度の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に、現役世代の社会保険料率の引き下げを明記した。すなわち高齢者の医療や介護の窓口負担を3割(介護の利用者は2割)まで増やすということである。このことが国民の社会生活にどういう影響をもたらすことになるか、十分な検討が行われてきたとは到底いえない施策がとうとう現実に迫ってきた。
経過を追ってみると、昨年7月の参院選と今年2月の衆院選では「手取りを増やす改革」「社会保険料を引き下げる」「医療費を4兆円削減する」といった大衆受けする公約を掲げた政党が議席を大幅に増やした。その結果政権与党が自公から自維に移行したことがこうした動きの背景にあるのは間違いない。
そこで「現役世代の社保負担減」の影響を以下に4点に絞って考えてみよう。
(1)まず医療機関に支払われる医療支給費は、現在75歳以上では1~2割負担の高齢者1800万人には公費(税)から約5割、現役世代の保険料(健保や国保)から約4割の支援金が給付されている。また現役並み所得があると窓口負担は3割になるが、医療支給費には公費(税)負担が一切なく、現役世代が払う保険料から支給費の約9割を賄わなくてはならない可能性がある。これでは75才以上の高齢者の保険料を大幅に増額しない限り現役世代の保険料の大幅な引き下げにはならない。
(2)現役世代の保険料と同額の保険料が企業(雇い主)や国・自治体(公務員の場合)の負担である(労使折半)。すなわち現役世代の保険料が下がるということは企業や国・自治体の保険料負担も同時に軽減されることであり、産業界にとって人件費減による収益増をもたらすことになるが、それが給与に反映されるとは限らない。
(3)本来、社会保険は病気や要介護という「保険事故」の際に、個人にとって大きな負担なく現物支給が受けられるというセイフティ・ネットであり、高い窓口負担のために必要な医療を断念するようなことがあってはならない。このために高額療養費の上限設定や外来特例が設けられているが、政令での上限引き上げや特例の廃止が検討されている。さらに行きつく先はOTC類似薬のように一部保険外負担がますます拡大する危険性がある。
(4)高齢者の負担が応能負担以上に重くなれば、それは高齢者を支えている現役世代の家計圧迫にもなり、介護離職の要因にもなりうることが様々な調査で示されている。まさに高齢者の負担増が社会的格差の増大に直接つながってくる問題である。
一方で企業の内部留保は年々増加し今や637兆円、中でも25年度だけで製薬企業の収益が主要24社だけで2兆円を上回った。他方では専守防衛であるはずの防衛関係支出が長射程滑空ミサイルやドローン攻撃機を含む9兆円を超え(約GDP比1.9%)、米国からさらなる増額を要求されて、国内の武器輸出産業が活気づいている。
このような動きを見るとき、今後の社会保障支出の削減によりいっそうの格差社会へ進み、さらに憲法に反する武装国家に向かって動いているのではないかという不安を拭い去ることができない。