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【2025.8月号】OTC類似薬の保険収載外しより優先すべき課題がある

 参議院選挙前の与党少数化をめぐる主導権争いのなかで、某政党から突発的に出された「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し」が「骨太の方針」に入った。
 これで国民医療費が下がり、したがって医療保険料が下がるという見解が流されているが、これは木を見て森を見ない皮相な見方ではないだろうか。
 OTC類似薬というのは現在保険収載されているがすでにスイッチOTC薬としてドラックストアでも同成分の薬が販売されている薬品とみなしてよいだろう。この主たるものは、配合された風邪薬や呼吸器用薬、鎮咳剤、鎮痛解熱剤、湿布や塗布剤を含む消炎鎮痛剤、外用薬を含む坑アレルギー薬、ステロイド含有薬や抗真菌薬を含む皮膚外用保護剤、粘膜保護や胃酸分泌抑制、止痢作用などの消化器用薬などである。
 こうしたOTC類似医薬品は後発品であり、保険薬剤費全体としてみれば、2023年薬価調査で後発品はすでに数量ベースで80.2%、金額ベースで56.7%であり、残りの高額な注射薬を含む薬剤の薬価抑制こそが行政の目標であるべきである。昨年10月からは先発品に患者負担となる選定療養が導入されたが、これ以上の患者負担増は受診抑制に通じる。
 むしろわれわれ臨床医は、「骨太の方針」に記載された「セルフメディケーション推進の観点からの更なる医薬品・検査薬のスイッチOTC化に向けた実効的な方策の検討」の方針(注釈208)に注目しておかなければならない。今後ますますスイッチOTC薬が増加することが目に見えている。同時に、高額薬剤や高額検査薬をイノベーションなどと称して放置していたのでは医療保険の崩壊につながりかねない。
 医療現場から見た時に、患者から必要性のあるOTC類似薬の処方を希望されたときにすげなく断ることができるだろうか。結局スイッチ化されていないより高額な先発薬を査定のリスクを冒して処方することになりはしないだろうか。
 また感染症と診断した際の発熱や咳嗽、身体痛対策として内服薬を所望されたときに薬局で買ってくださいとか、外傷や捻挫等で受診した救急患者の鎮痛薬も薬局で買ってくださいということになるのであろうか。

医療費削減を言うなら高額医薬品の引き下げを考えるべき

 2024年度の主要製薬企業25社の営業利益が全体で2兆1900億円を超えて史上最高の利益と報道されている。前年比の伸び率がなんと68.1%と極めて大きかったということだが、円安の恩恵もあって海外への売り上げが伸びたという。われわれの診療報酬の伸び率は1%にもならないが、このような収益増なら薬価引き下げが十分できるはずであり、次期薬価改定では十分な財源を確保して、診療報酬本体の引き上げを実現すべきである。そのことが選挙中に話題にもならなかったのは誠に残念であり、予算編成に向けた医療界の働きかけが問われている。